クラウド移行とは、企業が自社で管理してきたサーバーやシステムを、クラウド事業者の環境へ移す取り組みを指します。ここでは、クラウド移行のメリット・デメリットを分かりやすく整理し、移行手順や注意点を実務目線で解説していきます。
クラウド移行とは
クラウド移行とは、企業が従来利用してきたオンプレミスサーバーやレンタルサーバー上のシステムやデータを、クラウド事業者が提供する基盤へ移すことを指します。
移行先となる代表的なクラウドサービスとしては、主に以下のようなものが挙げられます。
- Amazon Web Services (AWS)
- Microsoft Azure
- Google Cloud Platform (GCP)
- さくらのクラウド

出典:総務省, 情報通信白書 令和7年版, 第Ⅱ部 第8節 「データセンター市場及びクラウドサービス市場の動向」, 図表Ⅱ-1-8-5 日本のパブリッククラウドサービス市場規模(売上高)の推移及び予測, https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd218200.html ,(2025年11月18日参照)
近年、国内のパブリッククラウドサービス市場は拡大を続けており、2024年時点の市場規模は約4,142億円から、2029年には約8,816億円へと成長すると予測されています。
成長率は緩やかになりつつあるものの、依然として高い需要が見込まれており、企業のIT基盤をクラウドへ移行する動きは今後も加速すると考えられます。
クラウド移行が行われる背景
総務省の「令和6年通信利用動向調査」ではクラウドサービスを利用する理由として、「場所を問わず利用できる」のほか「保守作業を社内で抱えない」「安定運用が可能」「災害時のバックアップとして利用」といった理由が、利用企業の上位を占めています。

出典:総務省, 令和6年 通信利用動向調査, クラウドサービスの利用状況(企業),「クラウドサービスを利用する理由」, https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/250530_1.pdf , (2025年11月18日参照)
特に業務システムでは、老朽化したオンプレミス機器の維持管理から解放されることや、災害時のバックアップ確保など、BCP強化が大きな要因です。
また、OSやミドルウェアのサポート終了に伴うリスク増大を背景に、更新のタイミングでクラウドへ移行する例も増えています。
Webサイトやオンラインサービスでは、キャンペーン時などに発生するスパイクアクセス(瞬間的なアクセス急増)に柔軟に対応できる点が評価され、クラウド基盤を採用するケースもあります。
こうした複合的な要因が重なり、クラウド移行は企業にとって重要な検討テーマとなっていることがわかります。
クラウド・オンプレミス・レンタルサーバーの違い
クラウド移行を検討する際には、クラウド・オンプレミス・レンタルサーバーの違いを理解しておきましょう。
どの方式を選ぶかによって、導入コスト、運用負荷、可用性、セキュリティの責任範囲が大きく異なります。適切な判断材料を知っておくことで、移行後のトラブルや無駄なコストを避けられます。
| 比較項目 | クラウド | オンプレミス | レンタルサーバー |
|---|---|---|---|
| サーバー設置場所 | クラウド事業者のデータセンター | 自社サーバールーム | 事業者が保有する共用/専用サーバー |
| 初期調達 | 不要 | 機器購入が必要 | 不要 |
| 運用・保守 | 事業者が基盤保守 | 自社(または外部委託) | 事業者がサーバー保守を担当 |
| 料金体系 | 従量課金 / サブスク | 初期投資+保守費 | 月額費用(固定料金が多い) |
| 更新サイクル | 事業者側で随時更新 | 3〜5年ごとに更改 | 事業者側で更新(利用者は意識不要) |
| 拡張方法 | リソース変更で即時拡張 | 機器追加が必要 | 基本は固定(上位プランへ移行は可) |
| 障害対応 | 基盤は事業者対応 | 自社で復旧 | 事業者側で対応(復旧は一任) |
| ネットワーク | インターネット前提 | 社内LAN中心 | インターネット前提 |
| セキュリティの責任 | 共有責任モデル | 全て自社管理 | 基盤は事業者、アプリは利用者 |
| データの保存場所 | 外部データセンター(国内外) | 自社内 | 事業者のデータセンター |
| 提供モデル | IaaS / PaaS / SaaSを提供可 | 自社構築 | ホスティング(共用/専用) |
クラウドは拡張性・可用性・運用負荷の低減に優れる一方、オンプレミスは高度なカスタマイズや自社主導のセキュリティ管理に適しています。レンタルサーバーは低コストかつ手軽に利用できる反面、システムの開発自由度は限定的と言えるでしょう。
自社の要件(コスト、運用体制、可用性、セキュリティレベル)を踏まえ、最適な基盤を選択することが重要です。
クラウド移行の4つのメリット
クラウド移行には、コスト最適化から運用負荷の削減、BCP対策まで多くの効果があります。ここでは、クラウド移行の4つのメリットを解説します。
1. 初期投資を抑えられる
クラウド環境はサーバー機器の購入や設置が不要なため、オンプレミスと比べて初期投資を大幅に抑えられます。
また、従量課金やサブスクリプション型の料金体系により、必要な分だけリソースを利用できる点も特徴です。
設備投資を抑えつつ、ハードウェアの保守や検証作業が効率化されるなど、運用フェーズでの費用対効果を高めやすいことから、中小企業〜大企業まで幅広い企業で採用が進んでいます。
2. 事業拡大やアクセス急増に対応できる
クラウドサーバーはスケーラビリティ(拡張性)に優れており、事業のフェーズや繁忙期などの状況変化に柔軟に対応できます。
サービス立ち上げ時は最小限の構成でコストを抑えて「スモールスタート」し、事業の拡大に合わせてサーバーの台数やスペックを拡張していくといった運用が可能です。
ストレージやCPUなどのリソースを即時に増減できるため、オンプレミスで発生しがちな「性能不足」や「過剰投資」のリスクがなく、長期的な事業成長と一時的なアクセス急増の両方に最適な環境を維持できます。
3. BCP(災害対策)強化につながる
クラウド提供事業者が提供するクラウド上の各種サービスは、冗長化されたデータセンターで運用されるため、災害時のバックアップ確保やサービス継続性の向上に寄与します。
オンプレミスのように自社拠点に依存しないため、地震や停電などの影響を受けにくい点も優れています。
また、マルチリージョン構成による冗長化や自動フェイルオーバーなど、BCP対策に直結する機能を利用しやすいこともクラウドの大きな強みです。
4. 運用・保守負荷が軽減できる
クラウド環境では、システムやアプリケーションの基盤管理を事業者が担うため、情報システム部門のハードウェア保守の運用負荷を削減できます。
- OSのアップデート
- セキュリティパッチの適用
- OS・ミドルウェアの設定変更
上記のような保守や検証作業では、仮想環境のクローンを作成して安全に検証できるなど、作業効率の向上も期待できます。
属人化しやすいインフラ運用の負担を抑え、情報システム部門の担当者がより付加価値の高い業務に集中できる点が大きなメリットです。
クラウド移行のデメリット
クラウドは柔軟性や拡張性に優れる一方で、費用変動やネットワーク依存など、オンプレミスにはない特性もあります。
コストが予測しづらく増大しやすい
クラウド環境の各種サービスは従量課金が基本のため、利用状況次第で費用が変動しやすく、オンプレミスのように一定額での管理が困難です。
特に大量のデータ転送やストレージ利用が増えると、想定以上のコストが発生することがあります。
| クラウド移行後にコスト増加が発生した具体例 | |
|---|---|
| クラウド移行後の影響 | 対策 |
|
|
また、ドル建て料金の場合は為替変動の影響も受けるため、長期的な予算管理には注意が必要です。
利用状況を可視化しないまま運用すると、想定外のコスト増につながりやすい点がデメリットです。
通信環境がシステム性能を左右する
クラウド環境では、インターネット経由でシステムを利用するため、通信品質に業務の快適さが左右されます。
オンプレミスのような社内LAN中心の環境と比べると、トラフィックの混雑や回線遅延の影響を受けやすく、レスポンス低下が発生するケースもあります。
| クラウド移行後に操作性に影響が生じた具体例 | |
|---|---|
| クラウド移行後の影響 | 対策 |
|
|
上記のように、業務システムではネットワーク品質の影響により、操作性が損なわれる可能性があります。
クラウド移行の手順
クラウド移行では、現状把握から本番切替まで一連の工程を段階的に進める必要があります。各ステップで検討すべき項目を明確にし、移行後の安定稼働を見据えた準備が、クラウド移行を成功させるポイントです。
1つずつ解説します。
1. 現状分析
まずは、現行システムの全体像を正確に把握することが必要です。業務担当者へのヒアリングなどを通じて、現状分析を行います。
- サーバー構成
- データ容量
- 性能要件
- 可用性要件
- セキュリティ要件
上記のような項目を可視化し、クラウドで同等の性能・可用性を確保できるかを確認します。
また、移行範囲に老朽化した機器やブラックボックス化したシステムがないかを棚卸したり、停止が許容されない業務や移行時のリスク要因を洗い出しも行いましょう。
影響範囲を整理しておくことで、後続工程の精度が大きく高まります。
2. 要件定義
要件定義では、クラウド環境で満たすべき性能や構成の基準を明確にします。
使用するサーバーのCPUやメモリ、使用するストレージ量など、利用するリソースによってサービス利用料などが決まるため、どの程度のスペックが必要かを定義することは、そのままコスト見積りの精度にも直結します。
| 要件定義の具体例 | |||
|---|---|---|---|
| 要件項目 | 要件 | 必要となる構成・仕組み | コストへの影響 |
| リカバリータイム | 障害時にすぐ業務再開できるようにしておきたい | 冗長構成を採用し、待機系サーバーを複数台用意 | サーバー台数が増え、月額費用が高くなる |
| バックアップ頻度 | 毎日バックアップし、1週間の世代管理を確保したい | バックアップストレージの容量を多めに確保 | 使用ストレージ量が増え、保管コストが上昇 |
クラウドでは、求めるサービスレベルが「必要なサービス構成」すなわちコストに直結するため、要件定義の段階で「性能・可用性・セキュリティレベル」を具体的に決めておくことが重要です。
3. クラウドサービスの選定
続いて自社の業務要件を満たすクラウドサービスを選定します。サービスごとに性能・拡張性・セキュリティ対策・料金体系が異なるため、サービス選定は慎重に行いましょう。
IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が公開している「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」では、クラウドサービスの選定やセキュリティ管理のポイントが記載されています。
【クラウドサービス安全利用チェック項目の具体例】
- どの業務で利用するか明確にする
- クラウドサービスの種類を選ぶ
- 取扱う情報の重要度を確認する
- セキュリティのルールと矛盾しないようにする
- クラウド事業者の信頼性を確認する
- クラウドサービスの安全・信頼性を確認する
出典:独立行政法人情報処理推進機構, 中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き, https://www.ipa.go.jp/security/guide/sme/ug65p90000019cbk-att/000072150.pdf , 2023.4.26
上記のような観点を参考に、クラウド事業者の信頼性やサービス内容などを精査します。
4. クラウド移行後の構成検討
クラウド移行に際しては、どのようなサーバー・サービス構成にするのか、目的・現行資産の状況・想定コストなどから総合的に判断します。
クラウド移行後の環境構成によって、移行工数やテスト範囲、発生し得るリスクが大きく異なるため、複数案を比較して最適な戦略を選ぶことが重要です。
例えば、既存のOSやアプリケーション環境をそのままクラウド基盤へ移す「リホスト」は短期間で移行できますが最適化効果は限定的です。
一方、データベースなどのミドルウェアをクラウドのマネージドサービスへ移行し、一部をクラウドへ最適化する「リプラットフォーム」は運用負荷を削減できる反面、設定変更やアプリケーション接続先の見直し、テスト範囲の拡大など、移行時に追加の工数が発生する可能性があります。

最終的には、業務要件と運用体制に最もフィットする構成を検討し、無理のない移行計画を描くことが重要です。
5. 移行計画の策定
移行計画では、情報システム部門を中心に、業務部門、外部ベンダーなど、プロジェクト体制を明確にし、役割と責任範囲を整理します。
そのうえで、テスト工程、データ移行、本番切替(カットオーバー)までの詳細なスケジュールを策定し、業務影響を最小化する移行日程を調整しましょう。
クラウド移行を行う対象システムや業務領域において、他システムとのデータ連携がある場合は、移行期間中の暫定運用や、取引先・連携先部署との作業分担、移行タイミングの調整も必要です。
クラウド移行は難易度が高い場合もあるため、情報システム部門だけで抱え込まず、実績が豊富な外部ベンダーと連携する体制を整えることが、プロジェクトの成功に大きく寄与します。
6. 環境構築
クラウド環境の構築では、仮想サーバー、データベース、ネットワーク、セキュリティグループなど、基盤となる構成要素を設定します。
あわせて、移行後の安定運用を見据え、監視、バックアップ、ログ管理、アラートなどの運用管理の仕組みも同時に整備することが重要です。
また、クラウドサービス(IaaS・PaaS・SaaS)では、事業者と利用者の責任範囲を分担する「責任共有モデル」が一般的であるため、自社が担う管理領域を理解したうえで適切な構築・設定を行う必要があります。

上記を踏まえた環境構築により、サービス提供側との分担が機能し、安心して運用できます。
7. 検証・テスト
クラウド移行後の品質を担保するためには、性能・セキュリティの観点で重点的にテストする必要があります。
クラウドはオンプレミスやレンタルサーバーと異なり、仮想化されたリソースを利用するため、同じスペックでも実行環境の挙動が変動しやすい特性があります。
また、セキュリティ設定や権限管理も利用者側が細かく制御する必要があるため、設定不備がそのままリスクにつながりかねません。
【テスト項目の一例】
- 性能・負荷試験:大容量のデータ処理の応答速度、スパイクアクセス時の耐性
- 可用性試験:サーバー切替手順、障害発生時の自動復旧動作の検証
- セキュリティ検証:アクセス権やデータ暗号化の設定漏れ
- ネットワーク検証:アクセス可能範囲や通信制御の挙動
こうしたテストを実施し、クラウド上での安定的な運用環境を確保します。
8. データ移行
データ移行では、データ容量や業務影響に応じて、一括移行、差分同期、段階移行など最適な方式を選択します。
クラウドではネットワーク越しに大容量データを転送するため、転送時間や転送料金が増える点に注意が必要です。
【クラウド環境へデータ移行する時の留意点】
- 画像・ログ・バックアップ履歴などの不要データを事前に削減して容量を圧縮する
- 夜間帯に転送や段階的なデータ移行で業務影響を避ける
- クラウド事業者が提供する専用線サービスや物理デバイスを使用した大容量のデータ移行サービスを使用する
必要に応じて、クラウド提供事業者や開発ベンダーのサポートを受け、安全にデータ移行を進めましょう。
9. 本番移行
本番移行では、システム停止時間(ダウンタイム)を最小限に抑えるため、切替日時や手順を事前に細かく設計しておく必要があります。
移行直後は、各機能の動作確認やログ監視を集中的に行い、万が一の障害にも迅速に初動対応できる体制を整えておきましょう。
【移行後のトラブル例】
- IPアドレスの接続制限が変わり、外部サービスから拒否されてしまう
- アクセス権限の設定が漏れており、アプリにログインできなくなる
- クラウド移行後に外部API連携でAPI制限(Rate Limit)エラーが頻発する
重大トラブルが発生した場合に備え、旧環境へ切り戻す作業手順や緊急時の判断基準、代替策などをまとめたコンティンジェンシープランを策定して、本番移行を実施します。
クラウド移行プロジェクトでよくある課題
クラウド移行プロジェクトでは、技術的な移行作業よりも、クラウドの特性に関する理解不足が要因でトラブルや課題が発生する傾向があります。
不要データを含めた一括移行によりクラウドコストが肥大化しやすい
クラウド移行のタイミングで、現行データを精査せず「すべてクラウドへ移す」方針を取ると、ストレージ利用量やデータ転送量が膨らみ、結果として運用コストが大幅に増えるケースが少なくありません。
特に、画像・ログ・古いバックアップなど蓄積された不要なデータをそのまま移行すると、クラウド上では容量課金・転送料金の対象となります。
移行前のデータクレンジングやアーカイブ設計を行い、必要なデータだけをクラウドに残すことが、コスト最適化の大きなポイントです。
クラウド運用の習熟不足により設定不備や性能劣化が起きやすい
クラウド環境では、監視設定・ログ収集・権限管理などを利用者側で柔軟に構築できる一方、運用設計の習熟不足によりトラブルが発生しやすくなります。
例えば、サーバー台数を自動で増減させる「オートスケール」を設定していても、CPU利用率が閾値に達してから追加サーバーが立ち上がるまで時間を要し、ピークアクセスに間に合わないことがあります。
クラウド環境や各種機能の挙動を理解していれば、事前に手動スケールでピーク時間帯に備えたり、適切な閾値で設定を投入したりすることで、安定的な運用が実現可能です。
クラウド移行を成功させるなら専門家を頼りましょう
クラウド移行は、コスト最適化やBCP強化、運用負荷の軽減といった多くのメリットがある一方で、方式選定や要件定義、ネットワーク設計、データ移行、本番移行まで、専門性の高い検討と綿密な計画が求められます。
自社だけで対応しようとすると、想定外のコスト増や性能劣化、トラブル時の切り戻し判断などで行き詰まるケースも少なくありません。
そのため、クラウドの特性を理解し、移行プロジェクトの実績が豊富な専門ベンダーの知見を積極的に活用することが現実的な選択肢となります。
サンアットマークでは、現状分析から設計・移行・運用設計までを一貫して支援し、お客様の状況に合わせた安全かつ無理のないクラウド移行プランをご提案しております。
以下より、お気軽にご相談ください。



