Amazon VPC(Virtual Private Cloud)は、AWSのクラウド上に論理的に切り離された仮想ネットワークを構築できるサービスです。本記事では、Amazon VPCの構築に必要な8つの構成要素や料金体系をはじめ、実務で頻出する標準的な構成例や、構築時に失敗しないための3つの注意点を解説します。
Amazon VPCを活用することで、インターネットへの公開範囲を厳密に制御したセキュアな環境や、Webシステムに最適化された可用性の高いネットワーク構成が実現できます。オンプレミスやレンタルサーバーからの移行に際し、自由度の高いネットワーク設計に戸惑っている方にとって、本記事で紹介する構成パターンは有効な解決策となります。
Amazon VPC構築に必要な8つの構成要素
Amazon VPCを理解するには「どの要素がどのような役割をしているか」全体像を把握することが重要です。
ここからは、VPCを構成するうえで欠かせない8つの要素について解説します。
- サブネット(Subnet)
- ルートテーブル(Route Table)
- インターネットゲートウェイ(IGW)
- NATゲートウェイ(NAT Gateway)
- VPCエンドポイント
- Elastic IP(固定IPアドレス)
- ACL
- セキュリティグループ

1.サブネット(Subnet)
サブネットとは、VPCという大きなネットワーク空間を、用途ごとに小さく区切った「部屋」のようなものです。
インターネットへの出入り口がある「パブリックサブネット」と、閉ざされた「プライベートサブネット」の2種類があります。
| 名称 | 特徴 | 主な設置リソース |
|---|---|---|
| パブリックサブネット | ・インターネットへ出るルートが確保されている部屋。 ・インターネットゲートウェイへの通信経路をもっている。 | ・Webサーバー ・ロードバランサー ・NATゲートウェイなど |
| プライベートサブネット | ・インターネットへ出る道がない、隔離された部屋。 ・外部からの直接攻撃を防ぎ、セキュリティを高める必須構成。 | ・データベース ・アプリケーションサーバ ・キャッシュサーバなど |
また、サブネット作成時には「CIDR(サイダー)」という表記で住所の範囲(部屋の広さ)を決めます。
末尾の「/〇〇」という数字は、IPアドレスの総ビット数(32ビット)のうち「固定する桁数」を表しています。つまり、残りのビット数(32 – CIDR)を2の乗数にしたものが、そのネットワークで使えるIPアドレスの総数です。
主なCIDRとIPアドレス数の計算数は以下のとおりです。
| CIDR | 全IP数 | 計算式 |
|---|---|---|
| /16 | 65,536個 | 32-16 = 16(ビット):2の16乗 = 65,536 |
| /24 | 256個 | 32 – 24 = 8(ビット):2の8乗 = 256 |
| /26 | 64個 | 32 – 26 = 6(ビット):2の6乗 = 64 |
2.ルートテーブル(Route Table)
通信パケットを「次はどこへ送るか」を決める、ネットワーク上の地図のようなルール表です。サブネットが「パブリック」か「プライベート」かは、名前ではなく「どのルートテーブルが紐付いているか」で決まります。
具体的には、送信先「0.0.0.0/0(インターネット上の全アドレス)」のターゲットを「インターネットゲートウェイ」に向けたルールを持つ場合、そのサブネットはパブリックとして機能します。一方で、ローカル通信のみの場合はプライベートとなります。
3.インターネットゲートウェイ(IGW)
VPC内部とインターネットを繋ぐための「唯一の出入り口」です。
VPC作成直後は完全に閉ざされたプライベートな空間となっています。Webサーバーを外部に公開するためには、このIGWを作成し、VPCにアタッチする必要があります。
物理ルーターと異なりAWS側で管理されるため、帯域幅制限や単一障害点のリスクを抑えられます。通常、1つのVPCにつき1つだけ作成して使用します。
4.NATゲートウェイ(NAT Gateway)
プライベートサブネットからインターネットへ「出ていく」ための一方通行の出口です。
例えば、外部から隔離されたDBサーバーが、OSのセキュリティ更新や外部API連携を行う際に使用します。
重要なのは、NATゲートウェイ自体は「パブリックサブネット」に配置する必要がある点です。結果として、「外からの侵入は遮断しつつ、内部から外部への通信だけを許可する」という、Webシステムに必須のセキュアな環境が実現できます。
なお、2025年11月のアップデートで「ゾーナル(単一AZ)」と「リージョナル(リージョン全体)」の2モードが選択できるようになりました。新規構築では、1つ配置するだけでマルチAZの高可用性が自動確保されるリージョナルモードが推奨されています。
5.VPCエンドポイント
インターネットゲートウェイを経由せずに、S3やDynamoDBなどのAWSサービスへ、AWSの内部ネットワークを通じて安全に接続するための機能です。
大きく分けて2つの種類があり、接続したいサービスや仕組みが異なります。
| 種類 | 仕組み | 対象サービス | 料金 |
|---|---|---|---|
| ゲートウェイ型 | ルートテーブルで経路制御 | S3、DynamoDB | 無料 |
| インターフェース型(PrivateLink) | ENI(ネットワークインターフェース)を作成して接続 | 上記以外のサービス(CloudWatch、SNSなど) | 有料 |
6. Elastic IP(固定IPアドレス)
インスタンスを停止・再起動しても変わらない、固定のパブリックIPアドレスです。
通常のEC2インスタンスに割り当てられる「自動割り当てIP」と比較すると、その必要性がよく分かります。
| 種類 | 再起動後のIPアドレス | 主な用途 |
|---|---|---|
| 自動割り当てIP | 変わる | ・IPが変わっても困らない用途 ・一時的な検証サーバなど |
| Elastic IP | 変わらない | ・Webサーバの公開 ・NATゲートウェイへの付与など |
Webシステムの本番環境では、IPが変わるとDNS設定との不整合が起きるため、外部公開する箇所には必ずElastic IPを使用します。
なお、2024年2月より料金体系が変更され、使用中・未使用を問わずすべてのパブリックIPv4アドレスに対して0.005 USD/時間の料金が発生します。Elastic IPも対象のため、不要なIPアドレスはこまめに解放する運用が重要です。
7. ACL(ネットワークACL)
サブネット単位で設定する防御機能です。
サーバー直前で守る「セキュリティグループ」に対し、こちらはネットワークの入り口で守るための「ファイアウォール」のような役割を果たします。
後述するセキュリティグループとの違いは以下のとおりです。
| 機能 | 適用単位 | 動作 | 推奨される使い方 |
|---|---|---|---|
| セキュリティグループ | インスタンス(サーバごと) | ステートフル(戻りの通信は自動許可) | 通信に必要なポートのみ許可 |
| ACL | サブネット | ステートレス(戻りの通信も個別に許可が必要) | 特定のIPをブロックするときに利用 |
設定が複雑になりやすいため、基本的には「すべて許可」のまま運用し、特定の攻撃IPをブロックしたい場合など、明確な意図がある時のみ設定を変更します。
8. セキュリティグループ
サーバー単位で設定する「仮想ファイアウォール」です。
「どのIPから、どのポートへの通信を通すか」という許可リスト形式で管理します。前述のACLとは異なり「ステートフル(戻りの通信は自動許可)」なのが特徴です。
実務における一般的なWebシステムの設定例は以下の通りです。
| 対象サーバ | プロトコル | ポート | 送信元(許可する相手) | 設定の意味 |
|---|---|---|---|---|
| Webサーバ | HTTP | 80 | 0.0.0.0/0 | Webサイト閲覧用(世界中から許可) |
| HTTPS | 443 | 0.0.0.0/0 | Webサイト閲覧用(世界中から許可) | |
| SSH | 22 | 会社の固定IP | 管理者によるメンテナンス用 | |
| DBサーバ | MySQLなど | 3306 | WebサーバのセキュリティグループID | Webサーバ経由のアクセスのみ許可 |
このように、「Webサーバーは広く公開」する一方で、「DBサーバーはWebサーバーからの通信のみを通す」という形で役割ごとにグループを分けることで、不正アクセスを防ぐ堅牢なセキュリティを実現します。
Amazon VPCの料金体系
VPCの設計において、コスト感覚を持つことは大切です。無料で作れるものと有料のものがありますので、それぞれを解説します。
- 無料で作れるリソース(VPC・サブネット・ルートテーブル)
- 料金が発生する3つの要素(NAT GW・データ転送量・VPN)
1. 無料で作れるリソース(VPC・サブネット・ルートテーブル)
AWSのネットワーク構築において、基本の骨組みを作成すること自体には料金はかかりません。
具体的には、以下のリソースは無料で作成・利用できます。
- VPC
- サブネット
- ルートテーブル
- インターネットゲートウェイ
- セキュリティグループ / ネットワークACL
ただし、以下のような「実際の設備」や「数に限りがある資源」を使う場合には料金が発生します。
- パブリックIPv4アドレス:世界中で数が不足しているグローバルIPを確保するため、もっているだけで料金がかかる
- VPCエンドポイント:側で専用の通信設備が動いているため、利用料がかかる
2. 料金が発生する3つの要素(NAT GW・データ転送量・VPN)
VPC自体は無料ですが、Webアプリケーションを運用する上で「従量課金」の対象となる重要な要素が3つあります。これらは知らずに使い続けると、想定外の高額請求の原因になりやすいため、仕組みを正しく理解しておきましょう。
| 項目 | 課金の仕組み | 料金目安(東京リージョン) | 注意点 |
|---|---|---|---|
| NATゲートウェイ | 時間課金・データ処理 | 約0.062 USD/時間 +データ処理/GB | ・常時稼働で高額化しやすい ・稼働時に費用が発生するため、不要時は削除が必要。 |
| データ転送量 | アウトバウンド通信 | 0.114 USD/GB | ・アップロードは無料 ・ダウンロードは有料 |
| VPN接続 | 接続時間・データ転送 | 0.048 USD/時間 | ・サイト間VPNやClient VPN利用時に料金が発生 |
※令和7年1月時点のAWS公式価格に基づく目安です。
Amazon VPCの具体的な構成例
ここからは、前述の要素を組み合わせた具体的な構成例を紹介します。代表的な以下2パターンを見ていきましょう。
- 標準的なWebアプリケーション環境
- テスト環境
1.標準的なWebアプリケーション環境
Webシステムを構築する際、セキュリティとメンテナンス性を高めるために推奨されるのが「Web/DB分離構成」です。ここでは、コストを抑えつつ堅牢性を確保できる、シングルAZでの標準的な構成例を紹介します。

| 用途 | 企業のコーポレートサイト、業務システムなど、セキュリティが重視される環境 |
|---|---|
| 構成のポイント | パブリックサブネットにWebサーバー、プライベートサブネットにDBサーバーを配置し、顧客データをインターネットから隔離 |
【事例紹介】
サンアットマークでは、多くのWebシステム開発においてこの「標準的3層ウェブアプリケーション構築事例」を採用しています。理論上の話ではなく、実際の開発現場でもセキュリティと可用性を両立する「実務の正解」として運用されている構成です。
2.テスト環境
本番環境での使用を目的としない、開発者の検証用や学習用の環境であれば、コストを抑えたシンプルな構成が適しています。

| 用途 | 技術検証、一時的な開発環境、学習用 |
|---|---|
| 構成のポイント | ・図のように「1つのアベイラビリティゾーン」内に「パブリックサブネット」のみを作成するシンプルな構成 ・インターネットゲートウェイ(紫のアイコン)を介して、自分のPCから直接サーバー(中央のアイコン)へ接続 |
| セキュリティ | ・セキュリティグループ(図の赤枠)での制限 ・サーバーが直接インターネットに接しているため、セキュリティグループの接続元設定を「自分のPCのIPアドレス」だけに絞り、不正アクセスを遮断。 |
この構成は構築が簡単でNATゲートウェイなどのコストも抑えられますが、障害耐性やセキュリティ強度は低いため、本番環境での利用は推奨されません。
Amazon VPCの構築方法
Amazon VPCの構築方法には、AWSマネジメントコンソールを使う方法のほか、IaCツールを使ったコードベースの管理も広く採用されています。本記事では、視覚的にわかりやすいマネジメントコンソールを使った構築手順を解説します。
マネジメントコンソールでは、AZの数やNATゲートウェイの有無を選択するだけで、必要なリソースを1画面でまとめて作成できます。
また、作成済みのVPCは「リソースマップ」タブから、サブネット・ルートテーブル・NAT ゲートウェイ・インターネットゲートウェイといったリソースの接続関係とトラフィックの流れを1つの図で確認できます。設定ミスや意図しない構成の発見にも役立つ機能です。
実際の画面にそってAmazon VPCの構築方法を解説していきます。
①VPC入力し選択
AWSマネジメントコンソールにログインし、画面上部の検索窓に「vpc」と入力します。表示されたサービスの候補から「VPC」をクリックします。

②「VPCを作成」選択
VPCダッシュボードに移動したら、画面左上にあるオレンジ色の「VPCを作成」を選択します。

③「VPCなど」を選択し、各項目を入力
各項目を入力していきます。
- 「作成するリソース」:「VPCなど」を選択します。
- 名前タグの自動生成:任意の名称を入力します。
- IPv4 CIDRブロック:決めたIPv4CIDRを入力します。
- アベイラビリティゾーン(AZ)の数:冗長化のため「2」を選択します。
- パブリックサブネットの数:「2」を選択します。

④画面をスクロールし、各項目を入力→「VPCを作成」
画面を下にスクロールし、各項目を入力していき、最後に「VPCを作成」を選択します。
- プライベートサブネットの数:「2」を選択します。
- NATゲートウェイ:コストを抑えるなら「なし」。完全な冗長化が必要なら「リージョナル」か「Zonal」を選びます。(※料金に注意)
- VPCエンドポイント:S3ゲートウェイを選択します。
- DNSオプション:両方にチェックを入れます。

⑤作成が完了すれば「成功」と表示される
構築プロセスが開始され、数秒〜数十秒で完了します。すべてのリソースにチェックマークが付き、「成功」と表示されれば構築完了です。
右下の「VPCを表示」ボタンを押すと、作成されたVPCの詳細画面へ移動します。

⑥作成したVPCなどの一覧でパラメータを確認
設計どおりのネットワークができているか、最後に必ず確認しましょう。

Amazon VPC構築時に注意すべき3つのポイント
AWSのネットワーク設計において手戻りを防ぐために、以下の3点は必ず事前に確認してください。
- プライマリCIDRは後から変更できない
- DNSホスト名を有効化する
- 使用可能なIPアドレスは5つ減る
1. プライマリCIDRは後から変更できない
VPC作成後にプライマリCIDRブロックは変更・削除できません。なお、セカンダリCIDRブロックを後から追加することは可能ですが、プライマリと重複しないアドレス範囲に限られるため、根本的な設計ミスをカバーできないケースもあります。
例えば、「192.168.0.0/16」でVPCを作成したとします。後日VPN接続を行う際、接続先の社内LANも同じ「192.168.x.x」を使っていると、IPアドレスが重複して通信できません。
この場合、セカンダリCIDRを追加しても重複は解消されないため、VPCを削除して作り直す必要があります。リソースをすべて作り直さなければならず、大きな時間と手間がかかります。
将来VPNをつなぐ可能性があるなら、事前に社内ネットワーク担当者に使用可能なIP範囲を確認することが大切です。
2. DNSホスト名を有効化する
VPCの設定項目の中で、トラブルの原因になりやすいのが「DNSホスト名」の設定です。
この機能が無効になっていると、VPC内に起動したEC2インスタンスに対してパブリックDNS名が自動的に割り当てられません。Webアプリケーションによっては、内部連携で名前解決が必要な場合があり、システムエラーの原因になります。
VPCの作成完了後には、必ず設定画面で「DNS解決」と「DNSホスト名」の両方が「有効」になっていることを確認してください。
3. 使用可能なIPアドレスは5つ減る
サブネットの設計時によくある失敗が、IPアドレスの枯渇です。
AWS仕様では、各サブネット内にあるIPアドレスのうち計5つが予約分として確保されるため、利用者は使用できません。
【使用できない5つのIP】
- ネットワークアドレス
- VPCルーター用
- DNS用
- 将来の予約用
- ブロードキャストアドレス
特に「/28」のような小さなサブネットを作ると、実際に使えるのは11個だけです。ロードバランサー(ALB)やオートスケーリングですぐにIPが足りなくなるため、実務では「/24」など余裕を持ったサイズで設計しましょう。
| CIDR | 全IP数 | AWS予約 | 実際に使える数 |
|---|---|---|---|
| /28 | 16個 | 5個 | 11個 |
| /24 | 256個 | 5個 | 251個 |
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